進学クラスだからといって、体育直後の授業で睡魔と戦わないわけではない。窓際のいちばん後ろからふたつめの席で戦闘を放棄しかけていたのがわたしだ。そして、わたし以外もじょじょに陥落しつつある。それに抗おうとする気持ちは普通クラスとくらべれば強いかもしれないけど、その強弱が勝利にかならずしもつながるわけでもない。だから、教室はやけにしずかだ。まどろんだ、プールの更衣室のなかのような空気がふわふわ漂う。まぶたが下がったまま上がってきていない、ということをぼんやりと認識していたそのとき、つつつ、と細いものが背中の上から下へと通過していくのに合わせて、わたしのまるまっていた背骨が整列してゆく。背後の席からの援護射撃だ。──めずらしい。いつもわたしを寝かせておいてくれるのに。
わたしが境目からこちら側へ戻ってきたことを確認するためか、こんどは上から下へと移動していき、ブラジャーのホックの小山を乗り越えていった感覚もわかった。汗をかいたあとのクーラーのせいか、お腹がひえた。スカートのウエストに手を持っていき、は、と肩があがる。──しまった、インナーを着忘れた。手でさわってわかるほど自分の体内からの水分で濡れたキャミソールを脱いで、新しいものに着替えようとしたら替えを入れていなかったことに気がついた。それで、少しでも乾かしてから着ようと思ってひとまずシャツに手を通したのだ。そのままボタンをしめずに談笑していたら、始業の時間がいつのまにか近づいていて再着用をすっかり失念し、そのままジャージ入れにいっしょに仕舞ってしまったんだ。
ゆっくりとうしろに、目だけでなく顔をむける。わたしの背を撫ぜたであろうシャープペンシルをくるりとまわして、小首をかしげ、音をださずに「おはよう」と菅原は口を動かした。最後にすぼんだ口が、本人に自覚があるかどうかは不明だがあざとい。「どーも」。わたしも口をひらいて、背中にシャツがひっついて派手な下着が透けないように、いつも以上に姿勢を正す。
想像した。ベッドの上で菅原に見下げられる自分の姿を。わたしの腰をほんの少し浮かせて、片手で器用にホックを外し、その手でわたしの背中を支えるなまぬるい温度を。わたしは菅原の片目の下のほくろに手をのばす。その額にひかる汗を拭う。──まだ夢の入り口からわたしは引き離されていないようだった。