関西からスカウトされてきたのは何も生駒・水上・細井・隠岐だけではない。もそのひとりであった。但し彼女は戦闘員・オペレーターではなくエンジニアとしてボーダーに呼ばれた。いや、呼ばれたというより着いてきた。
 もともとボーダーのスカウト組は神戸大学の研究室に篭っていたと同期の男の技術を引っ張りに来たのだが、研究室で彼らとが出会した際にのトリオン量は序でに計測されていたらしい。内部の人間のトリオン量は多ければ多いということだろう。君も来る? というおまけ扱いではあったが何に役に立つか定かではない研究よりボーダーに関係する研究というのは有意義だった。
 同期の男には付き合っていた女がいるということは知っていたがよくよく話を聞いてみればその彼女というのはの高校時代の友人のひとりであった。とはいえ大学入学後はいちどあったきりなのでその程度の関係性ではあった。すべての人間がそうとはもちろん言わないが、文系で遊び呆けている女と理系のとでは共通の話題がなくなることにも頷けた。
 予想はしていたが、三門市に越して来てから暫くしてはその彼女と再会する。彼女は恋人に会うために三門市へやって来るからだ。そうして女は定期的に三門市に住まうの元に顔を出した。待ち合わせ場所で再会を都度よろこぶ彼女に対しては「どうせこの子は彼氏と会うついでにわたしと会っているだけなのだ」と思う。そうではないだろ、ひねくれすぎだと言われても、実際彼女の恋人はと彼女が会っている間は仕事中で、その恋人の仕事が終わる頃合いを見計らってと別れるのだから見当違いな話ではないのだ。最悪の場合は男からの仕事終わりました連絡が届くまで付き合わされるのだから、タチが悪い。


 はそう言うと、生ハムを器用に爪楊枝で拾って口に運んだ。
「なあ自分、その男のこと好きなん?」
「話聞いとったんか? 耳掃除したろか?」
「いやいや、いちおー、確認やん」
 水上はそんないくつか年上のの話を自宅のリビングで聞きながら日本酒に口をつける。ボーダーの高校生は非行が嗜好に変わる率が随分高い。そうしてがその会合のあとに水上の家に押しかけるようになったのは何度目かと指折り数えたいが片手では足りるだろう。まだ責めるにも攻めるにも足りない。
「自分が思っとることを相手が思っとるとは限らんけど、自分がそう思っとるからこそ相手がそう思っとると思うんでしょ」
「は? なんて?」
「これやから物分かりの悪いアホはやなんですわ」
「もっかい言ってみー、クソガキ」
 下らないラブコメドラマをBGMに残りのビールを煽った彼女を横目で押さえつつ、浜辺にでも連れ出して甘く耳障りのよい言葉を囁いてもこの女は平然と悪態を吐くのだろうなどと想像したが、幸か不幸か三門市に海はなかった。